2022年9月発行「Sustainable Innovation Lab Annual Report 2021」へ掲載された記事をお届けします。前編はこちら林篤志SIL共同代表 / 一般社団法人Next Commons Labファウンダー白井智子SIL共同代表 / 特定非営利活動法人新公益連盟代表理事大澤哲也SILボードメンバー / 三ッ輪ホールディングス株式会社 取締役・経営戦略本部本部長瀧口幸恵SIL事務局長自律分散型のSIL瀧口:2年目に向けて、いろんな人がそれぞれのスタイルで動いていける自律分散型のコミュニティ(DAO)を本格的に目指そうという話がありますね。林:立ち上げ当初は、いろんな企業や自治体を中心にまず参画いただいて、その中で有志の方がメンバーとして入ってきてくださる。活動を進めていくうちに、会社というより「誰々さんはこう考えている」とか「誰々さんはこうしたい」と、個人に焦点が当たっていく。Sustainable Innovation Lab(SIL)も、会社も、個人が活動するための枠組みであり手段なんだって、改めて実感したんですよね。もちろん会社や組織も重要なステークホルダーですけども、個人の想いや意志を表現したいと思った時に、容易にアクセスができて、自由に活動できるような、そういう器が必要だなって思いました。それが自律分散という形にフィットしていくんじゃないかと思っています。瀧口:事務局が全部の場を用意できるわけではないし、自由に動いてくださいと言われても難しいでしょうし、コロナ禍で集まることもできず、なかなか新たな取り組みが生まれにくかった。今後はメンバー一人一人がそれぞれの想いを実現する場として、SIL のリソースを使えるような状態を目指したいなと思っています。大澤:企業に所属しながらも課題意識をもって、個人としてプロボノなどで参加されている方が思った以上に多かったです。こういった個人の想いを実現する場として、SILが自律分散組織として多様な参加形態を受け入れられるといいですね。DAO の可能性瀧口:DAO がキーワードとして出てますが、SIL にとってどんな可能性が開けてきそうですか。白井:これまで、従来の学校にはまらない子どもの教育をずっとやってきたんですが、全然救いきれてないんですよね。全国に約20万人、不登校の子どもがいる状況で、ほんとに誰も取り残さない、誰も取り残されない状態というのは、労働集約型ではつくれないっていうことを嫌というほど思い知らされました。テクノロジーの力で解決できることはして、人の力でしかできないところにマンパワーを集中させていかないと、誰も取り残されない社会はつくれないんじゃないかなっていう仮説の元に取り組んできたので、自然な流れだと感じています。林:DAO だから全てがいいという話でもないと思うんです。DAOって何なのか、どういう状態なのか、まだ誰もわかってないんで、どういう形であれば理想的に動くか探求することが、SILの性分に合ってるんじゃないかな。生きること、働くこととか、子どもを育てたり、親を介護したり、余暇を楽しんだり... そういったことのバランスを取りましょうというよりは、一体化していく世界があるような気がしていて。「100年後も地球と生きる」っていう状態は、 関わってる人たちが心地よく生きられる状況を目指さないといけないと思っています。そのために多様な関わり方を実現したいんですよね。瀧口:私もDAOを勉強し始めて、すごくチャレンジングなことをやろうとしてるのがよくわかりました。 誰も答えを知らない、決まった型もない。どう使うかによって、より良い社会をつくっていける可能性は確かにあると思います。白井:答えのないものだからこそ、SILとしてチャレンジする意味があると思います。これからのSIL瀧口:コミュニティづくりから、さらに挑戦的な段階に突入していくわけですが、これからどんな人と一緒に、どんな風に関わっていけたら面白くなりそうですか。大澤:想いとコミットメントを持った方であれば、ぜひいろんな人に来てほしいなと思いました。「100 年後も地球と生きる」ということについて、人任せとか評論ではなくて、自分なりの解釈と想いを持っていて、自らコミットして動く人とご一緒できるといいですよね。瀧口:これをやることがサステナブルであるとか、これはしちゃダメ、みたいなことを変に定義付けしないのがSILの面白いところだなと思います。いろんな解釈の共生みたいなものが生まれて、違うものがいっぱい出来て、それでOKって言える場所でありたい。白井:誰も取り残されないコミュニティをつくるために、ここにいるということはずっと変わらないので、そのために0歳から150歳まで学び続けられる形をつくりたいと思っています。子連れ出張の話も「みんな優しいよね、いい人だよね」っていうだけのことではなくて、我々にとってとても大きな学びの機会だと思うんですね。子どもってなかなか大人の思い通りにならないじゃないですか。それを目の前で見せてくれる彼らの存在感はすごく大きいし、彼らの成長を見せてもらいながら新しい学びの形を考えられるというのは、とても贅沢なことだなと。なので若い人とか、それこそ子どもとか、いろんな人に参加してもらいたいなって思っているところです。林:日本だけでどうこうできる話ではないので、やっぱり国境を越えないといけないなって思います。ハードルはまたぐっと上がるんですけどね。瀧口:新しいツールとか、知らない文化圏の話題とか「ちょっと居心地の悪い、新しいものを取り入れる」ことを続ける場にしたいです。林:越境力みたいなものはSILとしても勃発させていきたい。Local Coop 構想瀧口:Local Coopも本格的に動き始めましたが、事業開発の可能性や課題についてはいかがでしょうか。林:日本の多くの社会課題が人口減少と関係しています。Local Coop 構想はその問題に対する根本的なアプローチだと思ってるんです。地域のステークホルダーである自治体や地元の方々と、これまで拡大傾向にあったマーケットで勝負してきた企業が協働することで、スケールさせていくことを前提にするのではなく、 スコープした領域でビジネスを成立させる。その中で資源を循環させたり、市場価値がなかったものに価値をつけるといった新たなチャレンジをしようとしています。これはどの企業にとっても、特に日本の企業にとっては、 新しい常識とルールの中で事業をつくっていくことになるので、難しさと可能性の両方に直面しているんじゃないかと思います。大澤:この1年間、まさにその具体的な中身とか、人口減による地域のファイナンスの課題にどうアプローチするか考えながら走ってきて、ようやく枠組みが形づくられてきたと思っています。まだまだ課題だらけですが、ある程度形が出来てきたことで、これまで巻き込めなかった人たちを巻き込める段階にようやく来れたのかなと。抽象を具体化するプロセスを踏めている感覚はありますね。瀧口:SILのフェローでVUILD 代表の秋吉さんが「具体と抽象は、抽象から具体へ落とし込む関係性ではなく、常に行き来しあっている」というお話をX ゼミの中でされてました。それを引き続きやっていくんだろうなと感じています。白井:奈良とか尾鷲を見ていると、課題に対しての感度が高いところは、危機感の強さから早い動き出しに繋がっていて。それを見ている他の地域が可能性を感じて、じゃあここでもやってみよう、という動きが加速度的に起こるんじゃないかなと思います。具体と抽象を行き来しながら、いい仲間たちとプロジェクトを進められるのはすごく楽しいし、とてもワクワクしますね。ライター・編集:SIL事務局