2022年9月発行「Sustainable Innovation Lab Annual Report 2021」へ掲載された記事をお届けします。野山を駆け回り、虫や植物に囲まれて過ごした少年時代、「見たい」「触りたい」「知りたい」「つくりたい」、好奇心と探究心だけでその瞬間瞬間を生きていたと思う。それぞれの生い立ちがあるにせよ、誰しもが持っているシンプルで力強い原動力だ。しかし、歳を重ねるごとに、家庭、学校、会社、メディア、周到に用意された社会システムへの帰属が始まっていく。いつのまにか、画一化された価値軸に合わせて振舞うようになり、私たちは染まっていく。結果、現代社会という巨大システムの上では、一人の人間として扱われることはなくなっていった。お金を稼がないと生きていけない、売れるものが優れている、生産性を上げなければいけない、評価されたい、こういった価値観や強迫観念をこの世界から消し去りたい。子どもの頃のように純粋に、興味の赴くままに、つくりたいものがつくれる、それが生きていくことに直結する世界をつくりたい。金融資本ではなく、人間の創造力が、本当の資本にならなければいけない。私たちの創造力を加速させるためには、個人の開放<オープン化>が必要だ。私たちは本来もっと多面的で、多様な世界観を持った複雑な存在だ 。私の中にAという私がいて、つくりたい世界がある。一方で、Bという私もいて、別のものをつくりたい。個人の持つ時間やエネルギーは有限だが、多面的な個人の一部を概念として昇華し、他者と共有することで、無数の創造力をドライブすることができる。Sustainable Innovation Lab では、私の創造力に、あなたが加担し、あなたの創造力に、私も加担する。そういった無数の重なりが、持続的かつ多様な価値創造を生み出していく。社会のために私たちがいるのではない。私たちの集合体が、社会である。社会システムに組み込まれてしまった個人を開放し、SILのようなプラットフォームを介して、アイデンティティとアイデアを他者に共有することから、私たちの脱システムは始まる。その先には、旧来型のコミュニティや会社組織、国家のようなフレームワークは溶け、“100年後も地球と生きる” 世界があるだろう。ライター:林 篤志