2023年12月発行「Sustainable Innovation Lab Report 2022-23」へ掲載された記事をお届けします。Sustainable Innovation Labに参加するユースフェロー(学生や25歳以下のメンバー)がSIL共同代表の白井をモデレーターにむかえ、若者が考える100年後の未来について対談しました。白井智子(写真中央)Sustainable Innovation Lab 共同代表新公益連盟代表理事4〜8歳をオーストラリア・シドニーで過ごす。東京大学法学部卒業後、松下政経塾に入塾。1999年沖縄のフリースクール設立に参加、校長をつとめる。2003年大阪府池田市教育委員会から委託を受け、全国初の公設民営フリースクールを設立。東日本大震災後には福島県南相馬市に公設民営型の学童保育施設や保育園を立ち上げ、運営。2020年より、NPO等ソーシャルセクター約150団体が加盟する新公益連盟の代表に就任。政府の審議会委員やTBSテレビ「ひるおび」等のコメンテーターもつとめる。ユースフェロー(左から)滝本智丹(青山学院大学 国際政治経済学部 国際政治学科2年)SDGsを学んだことをきっかけに外国の貧困問題に興味を持ち、高校では世界の経済格差やフェアトレードのあり方について学ぶ。現在は学生団体「SANDS」の代表も務め、環境政策に関心を寄せている。島津叶英(青山学院大学、総合文化制作学部総合文化政策学科3年)映画やアート、音楽が好き。活気のある街づくりや環境に配慮した店のあり方、古き良き景観の保全などに興味あり。南光開斗(法政大学・現代福祉学部1年生)元ヤングケアラーで元不登校。自身が当事者として感じた社会資源の情報不足を解決するためのプラットフォーム作りに取り組む。渡邉直樹(東京農工大学 農学部 地域生態システム学科4年)斎藤幸平著「人新世の『資本論』」を読んだことをきっかけにNCLインターンに応募。戦争や環境問題、経済的格差などの根本的な原因となる世界システムに興味があり、博士課程まで進学予定。それぞれが思う、理想の未来白井:Sustainable Innovation Lab(以下、SIL)共同代表の白井智子です。今日はよろしくお願いします。ユースフェローの皆さんとお会いするのは初めてなので、楽しみにしてきました。 早速ですが、皆さんは自分や日本、地球の未来をどのように見ていらっしゃるのでしょうか。南光:僕は自分の原体験から「社会資源の情報がまとまっていない」「必要としている人に届かない」ということに強く課題意識を持っているので、困難に直面した人が必要な情報にきちんとアクセスできる社会になればいいなと思います。まずは既にいろんなソリューションを生み出している組織や団体があるので、取材や情報交換などを通じて交流を広げ、関係性を構築していきたいですね。組織の力が大きくなってきたら、最終的に行政へのアプローチを通じてアウトリーチしていくような流れを作れたらと思っています。白井:SILでやっていることと似ている部分が大きいかも。島津さんはどうですか?島津:大前提として貧困や環境問題の解決は必須ですが、個人的には先進国や都市部がどんどん同じような景色になっていくことをどうにかしたいなと思います。地方を活性化して、その土地ならではの個性や歴史を残せるようなまちづくりに携わりたいです。白井:いまお話を聞いていて、所謂「途上国」と呼ばれているような国はどういう姿を目指しているんだろう、とふと思いました。先進国が経済的に成長すればするほど社会課題も増えて、格差も広がって...という姿を見てきているわけじゃないですか。例えば滝本さんが高校時代に交流されていた東ティモールとかって、どういう姿を目指しているんですかね?滝本:自分たちで産業を確立したい、ということが第一にあると思います。NGOのピースウィンズ・ジャパンさんも支援に入られていたのですが、基礎から技術を教えることで、まずは現地の人たちが自立できる状態を目指されていました。白井:なるほど、ゼロベースで新しく産業や社会をつくっている最中ということですね。滝本:先進国の現状や課題を把握した上で、国をどうしていくのがいいのかという視点がないと、発展していく中で同じルートを辿ってしまう可能性はあると思いますが...白井:滝本さんはこれからの未来にどんなことを望みますか?滝本:若者を筆頭に、もっと政治への興味関心が高まるといいなと思います。市民と行政の関わりを深めることで社会課題に対してのソリューションを一緒に生み出していけるようになれたらいいなと思いますし、それが実現するような働きかけももっと行っていくべきですよね。グローバルガバナンスもこれからさらに強化されていくと思いますし、もっと国同士でも対話して、利他的な世界に向かっていけたら。白井:それはまさにSILのLocalCoopと共通する考え方。日本国内だけでなく、国境も溶けていくといいですよね。そこへのご自身の関わり方ってイメージされていたりします?滝本:国際政治を学ぶ中で、国連の機能不全などの問題は気になっていて...国連の職員になりたいと思っていたこともあったんですが、最近はもっと自分の価値を表現できる場所をつくりたいなという気持ちになっています。世界のことを学んでいるのですが、実際に現地に訪れられていないので、もっと世界を見てみたいですね。白井:実は私はピースウィンズ・ジャパンさんの中に「児童養護施設の子どもたちに留学のチャンスを」というプロジェクトを立ち上げたんです。3月に実際に6名の高校生をアメリカに引率して行ったのですが、その間、せっかく違う文化の中に身を投じるんだから、今までの当たり前や限界を壊してみよう、問いを立てよう、としつこく言い続けて。子ども達にとって、これまで自分たちがいた世界がいかに狭かったかということが肌で感じられる9日間だったようです。現在構想しているネットワークスクールでも、枠の中から飛び出して、異質なものと交わるという体験をつくっていきたいなと思っています。教育のこれまでとこれから白井:次は、これまで皆さんが受けてこられた教育について。もっとこういう風だったらよかった、小さいうちからこんなことを学びたかった、ということがあればお伺いしたいです。滝本:僕は小学校の頃に「いいことをすると褒められる」という心地良さを覚えてしまって、周りの期待に応えなきゃという気持ちが強くなってしまいました。他人の評価に依存しすぎるのはよくないと思いつつ、やっぱり共感されないと不安になる自分もいて...白井:わかるわかる。私もいい子ちゃんタイプでした!滝本:「意見が違っても、自分を否定されているわけではない」ときちんと受け止められるようになったのはここ最近です。自分で問いを立てたり、意見をしっかり言うこと、違う意見を受け入れることを幼いころからできていたら、もっと臆せず自己表現できていたのかなと思うこともあります。南光:僕が変えたいところは二つあって、一つ目は正解主義。学校でも家庭でも絶対的な「正解」があって、それ以外の考え方はおかしいという風に扱われてしまうことで、画一的な価値観の醸成につながっていると思います。二つ目は選択肢の少なさ。僕は田舎の公立校に通っていたこともあって、本当に狭い世界しか見えなかった。所謂「一般的なレール」から外れてしまったとしても、他にいくらでもいろんな生き方や仕事があるという選択肢を早くから知っているだけで違うんじゃないかな。白井:ネットワークスクールでも目指していることですね。30〜40人の生徒に対して一人の先生が割り当てられて、その先生が全員にとってのロールモデルですというのは無理がある。あらゆる人が ロールモデルだし、あらゆる人が学びを提供できる姿を模索したいと思っています。それと、中学を卒業したら一旦社会に出るっていう選択肢もメジャーにしていこうと。社会を見ることで「もっとこれを学ぶべきだ」っていうこともわかるし、学ばされるんじゃなくて、自ら学ぶ。学びたいと思ったタイミングで、いつでも学校に戻れる。学びと仕事と暮らしの境界線を溶かしていこうとしているんです。島津:中学卒業後にいちど社会に出るっていう選択肢、すごくいいですね。私はずっと勉強する意味がわからなくて、勉強が嫌いだったんですが、大学生になってから意識が変わりました。自分でアルバイトするようになって、経済格差とか貧困問題がようやくリアルに感じられるようになったというか... もっと早くから、勉強を自分の生活と地続きのものとして捉えられていたら良かったなって思います。白井:時代はどんどん変わっているのに、国語・算数・理科・社会...って科目は150年変わってないんですよね。さっき南光さんがおっしゃってた「正解にこだわる」っていうのも、これだけテクノロジーが発展している時代だから、ただ正解を記憶するということに関してはAIには勝てない。人間にしかできないことって、いま世の中に山積みになっている「答えのない課題」を自分の頭で考えて、正解であろうが不正解であろうが自分なりの進み方で責任とって生きていくってことなんじゃないかな。だからネットワークスクールでは、今の社会と学校との分断をなるべく解決したいなと思っています。滝本:島津さんのお話にもあったように、生活に紐づいた学びはすごく価値のあるものだなと思います。白井さんから「問いを立てる」というキーワードもありましたが、僕は成長してから 自由研究の魅力に気づきました。小・中学校の頃は自分で問いを立てられなかったが故に全然おもしろさがわからなかったんですけど、今は課題じゃないのに自由研究やりたいなって思ったり。白井:私、ありがたいことにいま自由研究を仕事にできているかも。新しく問いを立てて、トライアンドエラーを繰り返しながら実践していくプロジェクトばかりですね。まさに学びと仕事と暮らしが溶けている状態です。渡邉:正解主義みたいなところは僕も実感しています。白井さんがおっしゃったように時代錯誤だっていうような見方も理解できますが、個人的にはそもそも学校教育って個人の幸福のためにやってるわけではないと思っていて。学校としては、言われたことを指示通り適切にこなす人間をつくりたいのかなと...白井:これまではずっとそうでしたよね。渡邉:なので、むしろ学校教育を変えるというよりは、自分のスタンスに合うなら行く、そうでなければ行かない、という選択ができるようになればいいと思ってます。僕も今日自由研究の話をしようと思っていたので、滝本さんからそのワードが出てきて驚いているんですが(笑)、多様な選択肢をつくるためにも、これからも人生をかけて自由研究を続けていきたいなという気持ちで博士課程も目指しています。白井:皆さんが「問いを立てる力」を養うためにしていることって何かありますか?南光:高校の時の英語の先生がディベート大好きで。”Critical Thinking!”っていつも言っていて、それで習慣がついた気がします。だからやっぱり、早いうちから何回も量を重ねることなんじゃないかな。白井:小さい頃からそれが当たり前っていうような教育を受けてくると、また全然違うでしょうね。ゼロベースでものを考えるっていう習慣をつけていくことがやっぱり重要なのかなと思います。私もずっとフリースクールで現場の課題と戦ってきた25年だったので、そこから発想を変えるのに結構苦しみました。やっぱりどうしても今の課題に引き寄せられてしまう。でも結局ゼロから考える、自分で枠を作る訓練をしていくのがいちばん早いのかなっていう感覚はあります。これからのSILでやりたいこと白井:それぞれの課題意識や興味関心領域がある中で、SILであったらいいなと思う機会や、挑戦してみたいことってなにかありますか?渡邉:せっかく多様な人たちが集まっているので、もっと意見交換したり、企画を立ち上げたりアクティブに動かしていきたいです。誰もが表舞台に立つ機会をつくっていくことも必要かなと。白井:カンファレンスとか全体会議とか、若い人たちがみんなの前で話す機会も増やしていきたいですね。渡邉:そういう時にはじめて本当に言いたいことも出てくるのかなと思います。「意見があったら持ってくる」じゃなくて「意見をつくる」機会がもっとあるといいですよね。滝本:SILでの出会いや体験は本当に貴重だなと思っているので、もっと認知を広げてたくさんの人に参加してもらいたいですね。SILの活動自体もそうですし、プロジェクトのフィールドになっているローカルの魅力も発信していきたいです。白井:結局は「言い出しっぺがやる」。これに尽きます!やる人さえいればどんどん進んでいくので、率先して進めていってほしい。島津:私も雑誌(WIRED)を見るまでNCLやSILのことを知らなかったし、周りの友達にも知っている人がいなかったので、自分の活動も通じて少しでも認知を広げることに貢献できたらと思います。白井:そこにアートの力も使ってもらえると、すごく嬉しいです。ソーシャル系では特に、ここまでデザインを大切にしている組織はなかなかないんですよね。私がSILをやろうと思った理由の一つでもあります。新しい考えを伝えていくのに、デザインはとても大事だと思うから。南光:ユースフェローという枠を活用してインタビューや研修に行かせてもらったり、外との繋がりも積極的に作っていきたいです。個人的に兵庫県明石市にすごく興味があるので、明石市の制度や取り組みを学ぶための研修生みたいな感じで勉強に行かせていただけないかなあとか...他のフェローのみなさんも、同じ期間でそれぞれの興味関心領域の研修にいって、みんなで持ち帰ったことをpodcastとかで話せたら面白いですよね。滝本:尾鷲と月ヶ瀬のLocal Coopツアーに行かせていただいた時のことも色んな人と話したいなあと思っているけど、アウトプットできる場所がなかったのでぜひやりたいです。白井:実はSILのなかにインプットの場もアウトプットの場も結構あるんですよ。オンラインスナックとかトークプログラム「BUNTAN」とかね。ぜひユースフェローからも企画してもらいたいな。多様な選択肢を「自分で選び取れる」社会に南光:さっき僕が言った「正解主義」も、悪いことではないですよね。今まで正解を選ぶことをずっとやってきて、それが得意な人もいると思うので。「問いを立てる力」が必要とされる世の中で、戸惑いや生きづらさを感じる人もいると思うんです。白井:やっぱり、とにかく選択肢をつくること。別に今の学校教育をなくしたいと思っているわけじゃないけれど、今ある学校の姿だけが正解だって思ってる人が多すぎるから「問いを立てる」ということに対して苦手意識を感じてしまっているというのはあると思うんですよね。詰め込み教育じゃなくて、自分で問いを立てて、自分で問題解決能力をつけていく、ということがやりたいと思っても、その選択肢が少なすぎる。あったとしても、すごくお金がかかってお金持ちの子しか行けないとか。子どもは自分が生まれてくる環境を選べないのに理不尽だと思うんです。やっぱり、どこに生まれてきても、自分に必要な教育が選べる状況 を作るっていうことが大事。その「自分で選び取る」っていうこと自体も、すごく重要なプロセスのひとつだと思う。 滝本:いまの大学教育や、制度についてはどう思われますか?白井:学校選び=コミュニティ選びだと思っているので、どのコミュニティで生きていくかを点数で輪切りにして選考するということ、みんなが大学を目指すべきという風潮自体が歪みを生み出していると私は思ってます。 大学に限らず、中学を出たら一旦社会に出るという選択肢をつくろうとしているのも、そういう理由から。学びたい、研究したいという人は大学に行けばいいけれど、あくまで選択肢の中のひとつであり、いろんな道が開かれているべきだと思います。滝本:学校なのか社会なのか、学ぶ場所を自分で選び取れるようになるといいですよね。白井:地方だと特に選択肢が少ないというのはあると思います。私たちがつくろうとしている選択肢がメジャーになったらいいなと、すごく壮大な社会実験の途中ですね。いま構想している学校は、学校法人ではなくフリースクールのかたちで考えています。学校法人にすると、大きな校舎やプールや体育館など、あらゆる制約があって本質でない部分に巨額のお金がかかってしまう。やっぱりいちばん大事なのは、子どもたちに誰が接するかっていうこと。第一校目を予定している尾鷲市以外にも展開していきたいので、場所があって人がいればどんな環境でもやれるという汎用的なモデルをつくりたいんです。非常にハードルが高い目標ではあるんですが、未来のために誰も取り残さない教育を実現したい。ユースフェローの皆さんともぜひご一緒できたらと思います。ライター・編集:SIL事務局